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千葉地方裁判所 昭和32年(ワ)118号 判決 1960年2月27日

原告 鈴木隆

右訴訟代理人弁護士 後藤喜八郎

被告 増田喜一

右訴訟代理人弁護士 三枝重太郎

主文

一、別紙第二目録記載の各土地が原告の所有であることを確認する。

二、被告は、原告に対し、右各土地について、千葉地方法務局市原出張所昭和一一年五月二九日受付第二一七五号を以て為された各所有権取得登記の抹消登記手続を為さなければならない。

三、原告のその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用は、之を二分し、その一を原告の負担、その余を被告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

原告が本件各土地を所有して居たこと、然るに拘らず、被告名義で、各所有権取得の登記が為されて居たこと、その為め、原被告間に争いが生じ、その結果、原告主張の日に、原被告間に、右各土地について、和解契約が成立したことは、証人鈴木茂吉(第一、二、三回を通じて)の証言並に原告本人(第一、二回を通じて)の供述と当事者間に争のない事実とを綜合して、之を認定することが出来る。

然るところ、右和解契約の内容について争があるので、按ずるに、弁論の全趣旨によつて、右和解契約に於ける約定を記載した書面と認められるところのその各成立について争のない甲第二号証及び乙第一号証(同時に作成された同一内容の契約書)の文言には、不明確な点があつて、之のみを以てしては、右契約内容全体を明確に知ることが出来ないので、他の証拠と併せて考察すべき必要があるところ、右甲第二号証及び乙第一号証と前顕鈴木証人の証言並に原告本人の供述と証人山岸惣吉(第一、二回を通じて)の証言と成立に争のない甲第三、四号証とを綜合すると、右和解契約に於ては、左記各項の約定が為されたものであると認められる。

(1)、原告主張の各土地の内、原告が訴外石渡申之から買受けた唐上下の山林は、之を東西の二部に両分し、東半分は、原告から之を訴外鈴木茂吉に贈与し、西半分及びその余の土地は、之を被告に譲渡して、その所有とし、被告は、原告が之を被告の所有としたことの代償として、金一万五千円を原告に支払ふこと。(この金員は、即日、被告に於てその全額の支払を了した。)

(2)、原告が右訴外人に贈与した右山林については、昭和二三年一〇月二五日までに、被告から直接同訴外人に対し、所有権移転登記を為すこと。

(3)、被告が前項の日までに、右登記を為さなかつたときは、原被告間の右(1)の契約は、被告が之を破棄したものとして、無効となること、尚、そのときは、原告に於て被告から支払を受けた金一万五千円は、違約金として、原告が、之を没収取得するものであること。

右鈴木証人並に山岸証人の各証言中、右認定に反する部分は、孰れも、措信し難く、又、成立に争のない甲第四号証及び乙第二号証は、右鈴木証人並に山岸証人の各証言によつて、形式的に作成されたもので、真実の関係を表示するものではないと認められるので、その存在することは、右認定を為す妨げとはならないものであつて、他に、右認定を動かすに足りる証拠はない。

而して、右契約に云ふところの唐上下の山林の東半分が、原告主張の第一目録記載の山林であること、西半分及びその余の土地が原告主張の第二目録記載の土地であることは、弁論の全趣旨に照し、当事者間に争のないところであると認められ、又、原告が、右契約の成立した日に、右第一目録記載の土地を約旨に従つて訴外鈴木茂吉に贈与し、同訴外人が之を受諾したことは、前顕甲第三号証と証人鈴木茂吉(第二回)の証言によつて、之を認定することが出来るのであつて、この点に関する証人山岸惣吉(第一、二回を通じて)及び右鈴木証人の証言(第一、二、三回を通じて)中右認定に反する部分は、措信し難く、他に、右認定を動かすに足りる証拠はないので、右第一目録記載の土地は、右訴外人の所有に帰して居るものであると云はなければならない。然るに拘らず、被告が、右訴外人に対し、右土地について、未だ、その所有権移転登記を為して居ないこと従つて、原告にその報告を為して居ないことは、成立に争のない甲第一号証の一と右鈴木証人の証言(第一、二、三回を通じて)並に原告本人の供述(第一、二回を通じて)とに徴し明白なところであるから、被告は、前記和解契約に違反したものと云ふべく、従つて、右契約に於ける特約(第3項)によつて、原被告間の第(1)項の約定は無効に帰したものであると云はなければならない。従つて、右第二目録記載の各土地の所有権は、之によつて、全部、原告に復帰したものであるといはなければならないから、右各土地の所有権は、原告にあると断ぜざるを得ないものである。

この点について、被告は、答弁第三項の通り主張して居るのであるが、成立に争のない甲第五号証及び乙第二号証は、形式的に作成された書面で、真実の関係を表示するものでないこと、前記の通りであるから、被告主張の事実を認める証拠とは為し得ないものであり、又、被告の右主張に符合する証人山岸惣吉(第一、二回を通じて)の証言は、前顕鈴木証人の証言並に原告本人の供述及び成立に争のない甲第三号証に照し、措信し難く、他に、被告主張の事実を認めるに足りる証拠がないので、被告の右主張は理由がないから、之を排斥する。

然るところ、被告は、右各土地の所有権が原告にあることを争つて居るのであるから、原告は、それ等の土地が原告の所有であることの確認を求める利益を有する。故に、その確認の判決を求める部分の請求は正当である。又、右各土地について、被告を所有名義人とする所有権取得登記の為されて居ることは、被告の認めて争はないところであるから、原告は、被告に対し、その抹消登記手続を為すべきことを求めることが出来る。故に、被告に対し、その手続を為すべきことを命ずる判決を求める部分の請求も亦正当である。

次に、原告が、前記第一目録記載の各土地に対する所有権を失つて居ることは、前記認定の通りであるから、それ等の土地に対する所有権が原告にあることの確認を求める部分の請求は失当であり、又、右各土地に対する所有権が前記訴外人に帰して居るに拘らず、それ等の土地について、被告を所有名義人とする所有権取得登記が為されて居ることは、被告の認めて争はないところであるが、被告に対し、その抹消を求める権利は、右土地に対する所有権の移転に随伴して、移転するものであるから、その権利は、その所有権の移転に伴つて、右訴外人に移転し、原告は之によつて、既に、その権利を失つて居るものと云ふべく、従つて、原告は、被告に対し、右各登記の抹消を求めることの出来ないものであると云はなければならないから、(登記は実体権の変動に正しく即応しなければならないものであると云ふ原理を理由として、斯る場合にも原告に登記請求権のあることを認める説があるが、この説には従ふことが出来ない。何となれば、斯る原理は、登記法の認める原理であるとは云へ、それは、あくまでも手続上の原理であるに過ぎないものであるから、実体上の理由によつて生じた登記請求権を規制することの出来ないものであるところ、本件の場合は、実体上の理由によつてそれが生じた場合であるから、本件の場合には、この原理は、之を適用し得ないものであるからである。又、原告が訴外人に対し、所有権移転登記を為すべき実体上の義務のあることを理由として、本件の様な場合にも原告に登記請求権のあることを認める説があるが、この説にも亦従ふことが出来ない。何となれば、この説は、帰するところ、原告が、その義務の履行を為すべきことを前提として考へれば、本件三者間には、正に、右の様な条件的な因果関係があることになるのであるが、単に、条件的な因果関係があると云ふことだけでは、登記請求権は、発生しようもないのであつて、この様な関係は、義務の不履行による法律効果の発生に関して問題となるに過ぎないものであるからである)被告に対し、その抹消登記手続を為すべきことを求める部分の請求も亦失当である。

仍て、原告の請求は、右正当なる限度に於て、之を認容し、その余は、之を棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条を適用し、仮執行の宣言は、その性質上、之を附すことが出来ないものであるから、之を附さないで、主文の通り判決する。

(裁判官 田中正一)

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